何も書けなくなった。
好きな芸人が、若くなくなると急に書けなくなると言っていたが、きっとそれとはちがう。
私の中のエネルギーが無くなったわけでもなく、むしろ逆なんだ。
今私の中を支配するものはあまりにも純粋で言葉にできない。
そんな私のエネルギーを、ここに、一息で吐き出してしまいたいけど、そうしたら終わってしまう気がしてできない。
少し不足してる今が1番満たされてるってことだってきっとある。
人に出会う。
素敵でたまらなくて、家に着いた頃にはなにかの前兆や余韻が全身を強く抱きしめる。
いや、私が私を抱きしめていたのかも。
その夜は、布団の中でその日のことも、ずっと前のことも、とにかくあれこれ無意識に頭に蘇り、気が付くと、というか、あえて、泣いた。
その出会いを人に話すと、私の思いとは裏腹にツルツルと滑っていった。
滑っていくそれを見て、私はかえって私の想いの深さを感じた。
「きみの話を聞かせて」
私はよくそう言って、言葉をカツアゲする。
嬉しいときも、苦しいときも、気持ちいいときも、
それがベッドの上でも、
息がかかるほど耳元まで口を持っていき、懇願する。
私では無い異質な他者から吐かれる言葉を、人目も気にせず拾い集める。
時には、だらしなく身なりもぐしゃぐしゃになりながら、地面に這いつくばって拾い集める。
そこまでして欲しいものとは一体なにか。
私はほんとうにきみが知りたいのか。
ほんとうはなにが欲しいと思っているのか。
きみからは、手紙よりも詩が欲しい。
手紙よりも写真が、曲が、絵が欲しい。
それはなるべく閉鎖的に作られたものであってほしいと思う。
きみを客体よりも主体で感じたい。
だから、あなたの目で世界を捕まえたい。
あなたの肌で世界とつながりたい。
あなたの嗅ぐ匂いが、流れる思考が知りたい。
あなたはいったい、どんな世界にいるの?
綺麗だと思う。
東京の街は、明るい。
もっと明るくなればいい。
少し下を向けば、私の影が眼球に飛び込んできて痛む。
それならもっともっと明るくなればいい。
私の影すらも全て白く飛ばして、私も白にまみれたい。
目も昔よりもうずっと見えない。
麻薬みたいしびれてて、
嘘だとわかっていても、ほんとうだと思っている。